「巡検・野外調査とツーリズム」
―大学で行われている巡検・野外調査を通じて―
※この内容は、2001年7月14日に行われた日本大学地理学科同窓会の記念パネルディスカッションにおいて発表したものに一部修正・加筆したものです。
記念ディスカッションのパネリストたち
<はじめに>
私がいわゆる巡検や野外調査と呼ばれているものに初めて出会ったのは高校2年生の時であった。母校の高校では修学旅行がなく、かわりに校外学習と称されていたのである。今にして思えば、この校外学習が大学でいう野外調査にほぼ等しい存在であった。詳しい経緯については、ここでは触れないでおくが、とにかくその郊外学習がきっかけで地理学科に進むことになったのは間違いないことである。
<日本大学地理学教室で行われている巡検・野外調査>
過去11年間に日本大学地理学教室において行われてきた巡検・野外調査についてまとめたものが3つの表である。資料は、1998年以降については地理誌叢・学科パンフレット・自分の記憶をもとに作成、それ以前の年に関しては地理学科に資料がなかったため「文理学部報」に記載されているものについてまとめた。したがって、事実と異なる部分も存在するはずである。そして、規模の大小はあるものの、実際はもっと多くの巡検・野外調査が行われているということは言うまでもない。
表1:過去11年間の2・3年次における野外調査・野外実習の調査地域とテーマ |
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年度 |
主な調査地域 |
主たるテーマ |
1990 |
群馬県川場村 |
山村の地域構造調査 |
1990 |
紀伊半島東部 |
紀伊半島の開発と自然環境 |
1990 |
石川県羽昨市 |
羽昨市周辺の地域特性の調査 |
1990 |
札幌市及び小樽市 |
都市発達と都市機能に関する調査 |
1990 |
静岡県阿部川流域・久能山 |
沖積平野の地形と洪積台地の調査 |
1990 |
北四国 |
地域開発と自然 |
1990 |
宮城県鳴子町 |
鳴子・鬼首・中山平盆地の地形及び地質調査 |
1991 |
茨城県西南部 |
常磐線沿線の地域調査 |
1991 |
長野県木島平村 |
木島平村の地域調査 |
1991 |
青森県弘前市 |
弘前市周辺地域の地形・都市機能調査 |
1991 |
相馬市・山形市・仙台市 |
東北南部の海岸・丘陵・山地の地形調査 |
1991 |
長野県松本市 |
松本盆地における産業および都市基盤の確立と変容の調査 |
1991 |
秋田県鹿角市 |
秋田県鹿角「生活空間の特性」に関する調査 |
1991 |
徳島県勝浦町 |
勝浦町の地域構造と自然環境に関する調査 |
1991 |
米子市・出雲市 |
山陰地方における地形・土地利用等の調査 |
1992 |
和歌山県 |
和歌山における都市構造調査 |
1992 |
山形県天童市 |
最上川中流域の自然・社会環境の調査 |
1992 |
青森県六ヶ所村 |
やませ常襲地域の気候環境調査 |
1992 |
広島県呉市 |
都市構造・都市機能の調査 |
1992 |
青森県下北半島 |
地形・気候・産業などの調査 |
1992 |
香川県讃岐平野 |
地形および伝統産業などの調査 |
1992 |
北海道東部 |
地形・気候・産業などの調査 |
1992 |
三重県鈴鹿市・四日市市 |
鈴鹿市およびその周辺地域の都市化現象の調査 |
1993 |
岩手県盛岡市 |
地域開発と小売業の調査 |
1993 |
新潟県村上市 |
近世城下町の都市構造の変容および歴史的風土保存行政の研究 |
1993 |
長野県・岐阜県 |
段丘・活断層などの調査 |
1993 |
石川県羽昨市 |
断層・地すべり・海岸段丘・沖積平野などの調査 |
1993 |
福井県三方町 |
農業・農村調査 |
1993 |
沖縄県伊計島 |
伊計島の生活空間 |
1993 |
長野県北八ヶ岳 |
縞枯れ現象に関する調査 |
1994 |
千葉県千倉町 |
海岸地形の観察と記載 |
1994 |
東京都・神奈川県 |
テフラの露頭観察法と記載 |
1994 |
山梨県上野原町 |
桂川の河成段丘の調査法 |
1994 |
栃木県鹿沼市・宇都宮市ほか |
地方都市における都心構造の研究 |
1994 |
岡山県岡山市 |
地理情報の調査と分析 |
1994 |
長崎県・佐賀県 |
九州北西部の地形・農業・都市景観等の調査 |
1994 |
青森県脇野沢村 |
過疎山村の総合的調査 |
1994 |
滋賀県今津町 |
琵琶湖西岸および比良山地の地形・地質 |
1994 |
福岡県福岡市・太宰府市ほか |
玄海・有明地域の生活環境と都市景観の地理学的調査 |
1994 |
山形県酒田市・鶴岡市 |
庄内平野における農業をはじめとした地域変貌の調査 |
1994 |
富士山北麓・東麓・箱根 |
火山地形と火山噴出物の観察法 |
1995 |
兵庫県神戸市 |
災害における地理情報システムの役割と災害状況の調査 |
1995 |
岐阜県・福井県 |
地方小都市における都市化調査 |
1995 |
四国4県 |
四国の地域構造調査 |
1995 |
新潟県三条市・燕市 |
信濃川下流域における農業・農村地域の変容 |
1995 |
濃尾平野西南部(愛知・岐阜) |
濃尾平野周辺の地形と土地利用調査 |
1995 |
北海道上湧別町 |
オホーツク海沿岸の農業と土地利用 |
1996 |
長崎県長崎市 |
長崎市の歴史と文化を活かした都市づくりに関する調査 |
1996 |
広島県広島市 |
地理情報システム(GIS)を利用した地域分析 |
1996 |
北海道(函館・札幌・ほか) |
北海道の地域構造調査 |
1996 |
宮城県鳴子町 |
鳴子・鬼首・中山平盆地の地形と地質 |
1997 |
下北半島 |
下北半島の総合調査 |
1997 |
宮城県鳴子町 |
宮城県鳴子・鬼首・中山平盆地の地形と地質 |
1997 |
長野県中野市 |
山村社会の持続可能メカニズムの地理学的研究 |
1997 |
福岡県福岡市 |
地方自治体におけるGIS・RS |
1998 |
北海道千歳市 |
北海道石狩平野の開発 |
1998 |
富山県黒部川扇状地 |
黒部川扇状地における農業・農村地域の持続的発展メカニズムの研究 |
1998 |
兵庫県淡路島ほか |
淡路の地域空間 |
1999 |
宮城県松島・石巻海岸 |
岩石・砂浜海岸の地形を調べる |
1999 |
新潟県北地域 |
地方中核都市の活性化を探る |
1999 |
新潟県佐渡 |
わが国における農業・農村地域の現状と持続的発展 |
1999 |
人吉盆地ほか |
人吉盆地の地域空間 |
2000 |
網走・知床半島 |
オホーツク海沿岸の自然と土地利用 |
2000 |
宮城県鳴子町 |
奥羽山脈中の盆地群の地形の特徴とその成因 |
2000 |
大阪・京都 |
GIS・GPS・RSを利用した都市調査 |
2000 |
宮崎県綾町 |
地方都市の活性化方法に関する研究 |
表2:新入生オリエンテーションにみる野外の行き先 |
|
年度 |
実施場所 |
1991 |
千葉県立博物館・犬吠崎灯台・建設省国土地理院 |
1992 |
筑波研究学園都市・建設省国土地理院・筑波山・霞ヶ浦 |
1993 |
秩父自然史博物館・秩父盆地・長瀞・武甲山 |
1994 |
隅田川周辺・浅草・江戸東京博物館・東京都庁 |
1995 |
東京都庁・高尾山・相模湖 |
1997〜 |
高尾山 |
表3:授業にみる野外調査の行き先 |
|
|
年度 |
地域 |
授業名 |
1995 |
丹沢山地 |
地形学実験 |
1997 |
神奈川県三浦市 |
地形学実験 |
1995〜 |
東京都中央区 |
農業地理学U |
1996〜1999 |
東京都大島町 |
主に1年生対象 |
1996〜1998 |
山梨県上野原町 |
地誌学T・U |
1999 |
東京都調布市 |
地誌学T・U |
1999〜 |
黒部川扇状地 |
オープン |
?〜2000 |
国分寺・小平 |
日本地誌 |
表4:海外実地研究にみる野外の調査地域 |
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年度 |
地域 |
テーマ |
1995 |
スイス・オーストリア |
アルプスの自然と人間 |
1996 |
パキスタン北部地域 |
パキスタン北部地域の自然と人間 |
1997 |
スペイン |
イベリア半島の自然文化と人間の営み |
1998 |
アメリカ西部 |
アメリカ北西部の自然と社会 |
1999 |
イギリス |
ヨーロッパの都市・地域計画と地理情報システム |
2000 |
中国(天山山脈) |
氷河と砂漠の自然環境(天山山脈) |
2001 |
パキスタン北部地域 |
パキスタン北部地域の自然と人間 |
<アンケートからみた日大地理学科学生の巡検・野外調査に対する意識の実態>
テスト期間中に行ったこともあってか、有効なアンケート数は67にとどまった。学生数が約400名とすると学科全体の17%の学生から回答が得られたことになる。入学してからの巡検・野外調査に参加した数と学年の関係はこのグラフの通りである。これによると、年平均で1.5〜2回参加していることになる。学生が巡検・野外調査を選択する際に重視することの結果はこのグラフ、何のために参加するかについての結果はこのグラフの通りである。比較的まじめな学生が多いことが分かった。さらに、巡検・野外調査に行く場合、できれば大学から遠く、しかも北海道や沖縄のような地域に行ってみたいという学生が圧倒的に多かった。
学年と巡検・野外調査の回数の関係
学生が巡検・野外調査を選択する場合に何を重視しているか
何のために巡検・野外調査に参加しているか
<学生から見たツーリズム>
一般の大学生からみた場合と地理の学生が見た場合はやはり違いあるようで、どうしても地理の学生の場合は、目的地へ行くまでの行程も楽しみ、人によっては巡検気分で観光している人もいるようである。しかし、学生の場合どこまでをツーリズムともなすのかは個人の判断になってしまうし、学生である自分も深くは追求できない状態である。
<巡検・野外調査とツーリズム>
学生たちは大学で催される巡検・野外調査を利用し、自分たちのツーリズムを楽しんでいるように伺えます。巡検・野外調査の調査地まではストレートに行くが、いざ終わって帰るという段階では、どの人も何らかの観光をしていることが多いようである。したがって、巡検・野外調査そのものに対してはツーリズムが求められなくとも、それを通してツーリズムが生まれてくるのが巡検・野外調査との関わりになってくるのではないかと思う。
<日大地理学科の学生が求める巡検・野外調査>
大学から遠く、しかも学年問わず多くの学生が参加できるオープンな巡検・野外調査を頻繁に行って欲しい、とアンケートの結果や日ごろの学生の声より明らかになった。学科が主催の巡検・野外調査でなくとも学生自ら主催し参加するような形態でもいいのである。とにかく、多くの巡検によってそれだけテーマがあれば、学生の求めるものやテーマの発見に近づいていくような気がする。
<おわりに>
今回は「巡検・野外調査とツーリズム」でありましたが、この先に個人的に大学で行われる巡検・野外調査と呼ばれるものに対して、より深く考えていこうと思いました。また、今回の内容は私の勝手な判断と至らぬところが多く、まだまだ荒削りです。しかし、これをさらに発展させて大学に役立つような資料が残せればと思う。