GISカンファレンス2003<2003年7月5日>


はじめに
昨年の「GISカンファレンス2002」に引き続き,今年も「GISカンファレンス2003」が開催されました.今年は,新しくできた六本木ヒルズで開催されるというので,参加することにしました.日程の都合上,5日の土曜日のみの参加で,教育GISスクールと教育部門の基調講演に参加したので,報告いたします.なお,それぞれの発表の「(概要)」については,烏山の視点によるものですので,適切な表現で適切に反映されているとは限りませんので,あらかじめご了承ください.訂正・意見等ありましたらメール等で連絡して下さると幸いです.


■開催概要
 
 
主催 GISカンファレンス実行委員会 共催 地理情報システム学会

 日時:2003年7月4日(金)〜5日(土) 
 場所:六本木アカデミーヒルズ(六本木ヒルズ森タワー49階)
     [展示フロア]六本木ヒルズ森タワー24階

■教育GISスクール−みせます!GISのおもしろ授業− <於:六本木ヒルズ森タワー24階>

●フライトシュミレーションによる空間認知の矯正
小関勇次氏:早稲田大学大学院教育学研究科/千葉県長期研修生
(概要)
これは,略地図指導の新たな取り組みである.フライトシュミレーションを用いて,空間認知の矯正をおこなった事例である.フライトシュミレーションは,つけさせたい能力(二次元+三次元)の矯正に役立っており,また,日本の略地図と都道府県名とが一致することにより,国土認識につながるといえる.したがって,フライトシュミレーションから,空間的思考による「現実空間」の認識を補正する有効性があるといえる.

●地域の規模の異なる地域調査
福田英樹氏:埼玉県飯能市立加治中学校
(概要)
これは,身近な地域調査におけるGISの活用をとりあげた事例である.混沌の中から「地理のおもしろさ」を見つけ出すことがねらいである.地理的事象の関連と電子地図Viewerが,今後の発展可能性を担っており,1つの典型的な教材が必要とされるのである.そのためには,様々な地図会社と教育用ユーザーとの架け橋がなくてはならず,教育GISフォーラムに代表される機関が重要な位置を占めている.


●School GISを用いた身近な地域学習
山田達夫氏:静岡県細江町立細江中学校
(概要)
問題解決,課題発見のツールとしてGISを捉えると,GISの受け入れ,操作支援,教師の資質,がキーポイントとなってくる.School GISは,GISを用いてつけさせたい力は何か,に重点をおいて以下のような可能性を持っている.例えば,交通事故を題材とすると,安全協会との連携から事故発生マップを作成することができる.他教科との連携,学校・大学・企業のノウハウをもとに,地理学習とGISを融合することができる.そして,教師を支援する環境によって,以上が実行可能となりうる.


●Excelで作る地図
小林岳人氏:千葉県立沼南高柳高等学校
(概要)
Excelのグラフ機能を用いて,日本列島の地図を作成した.例えば,本州では720地点の海岸線のデータを取得し,720角形を作る要領で行った.この方法は,GISを意識するのではなく,通常の授業の中で少しずつ出していくとよい.地理の授業が,
暗記じゃない・面白い・これまでとは違う,これらのインパクトが大きいと教育的効果につながる.また,教育的意義については,費用がかからない,汎用性が高いところに代表される.厳密にい言えば,パソコン室のパッケージ化,「情報」教科との関連,と同時に,手作業的感覚による理解の促進が得られることが一番大きい.したがって,便利すぎるよりもある程度面倒くさいほうが理解できることになる.

●身近な地域のGISマッピング
フェリス女学院大学GIS研究会
(概要)
GIS研究会の活動について始まり,GISNote,モバイルGIS等の紹介が中心に行われた.活動では,大学の所在する緑園都市のデジタル防犯マップを事例に「人間性を追及した豊かなまちづくり」が紹介された.これは,GISの実践・応用として,大学・地域社会・行政で共通の問題に取り組み,連携の結果,ボランティア意識の育成と環境整備を産・学・官・民で取り組むものである.このことは,阪神大震災や有珠山噴火のようなGIS利用ではなく,今後は地域活性化へ貢献するためのGIS利用が有用であることを示している.また,客観的地図での地域還元,プライバシーと情報公開との境界線は,共同でまちのコミュニティを活性化する際の問題点といえる.


■基調講演[テーマ:教育](7/5の第2部) <於:六本木ヒルズ森タワー49階>

学校教育にけるGISの現状と課題
井田仁康氏:筑波大学教育学系助教授
(概要)
現在では,プレゼンテーションとしてのGISではなく,トゥールとしてのGISが必要な時期に来ている.そして,身近に実感できる地理的事象の分析も必要である.GISによって育成できることして,意思決定能力,判断力,興味・関心があり,そしてまた,独自性をもった身近な地域もGISによるものである.今日の教育的な視点でいえば,GISの概念は簡単であることを表示し,教科書とソフトとの関連性(共通性のある学び方とソフト)を必要とし,地域(学校)に応じた使用法を確立することが課題である.


情報教育におけるGIS−意義と可能性−
秋本弘章氏:獨協大学経済学部専任講師
(概要)
まず,情報科はGISと関係深いものが多いのに,教科書では「GIS」という単語しか存在していない.したがって,GISの考え方・手法の理解,GIS利用の意義を理解することが最優先されるべきである.また,GISの普及は,GIS利用の進展・深化,政策的意思決定の支援を可能としている.ところが,現在では,総合学習にみられるように,可能性を論ずる時期でなはく,実行の時期にあるといえうよう.同時に,GISの基礎となる空間分析力の支援も求められる.


学校教育におけるGIS利用の課題と将来
村山祐司氏:筑波大学地球科学系教授
(概要)
学習指導要領の改訂(
自ら学び,自ら考える力,すなわち「生きる力」を育成することを重視)により,知識の習得から学び方(例えば,方法論やプロセス)を学ぶことが重視されるようになった.このことは,GISが大きな役割を演じることを示唆している.具体的には,データの蓄積,問題意識の共有,共同作業の支援,単元間・教科間の支援,他校・地域・諸機関との連携である.教育GISが普及するには5要素(ハードウエア,ソフトウエア,デジタル空間データ,教師のスキル,教師の意志・意欲)が必要であるが,日本はまだ初期段階である.また,データは共有財とされている.GISが見込める教科としては,高校では「地歴科」「地学」「情報」「総合的な時間」があげられる.
内容の取り扱いでは,単位地区・階級区分等の可変的設定により,GISが空間的思考の涵養に有効であることがわかる.学校教育にGISを浸透させる第一歩には,インターネットGIS(
多人数教育に適,家庭でも利用可能)の利用が効果的と考えられている.ソフトとデータの一体化提供が不可欠で導入期・普及期には重要であり,とくに重要なのはコンテンツである.話題性のある空間データの提供は,とくに「総合的学習の時間」で有効である.
GISの普及には,教育現場のニーズを把握するのが必要となり,「こんなことができる」のではなく,
どんな場面で支援できるかを考えることが重要である.これは,現場の教師とGIS提供者の相互理解によるものである.

参加した感想
まず,学校教育にGISを導入するにあたり,最終的に生徒の知的好奇心に依存してしまう,ということが現状における最大の問題であるように思う.とくに,高等学校ではそれが顕著であろう.一方で,情報科等との関係において,GISが数理的思考の育成に使用できるようにも感じた.そして,教育的効果をどこに求めるかによっても,GISの浸透度が変わってくるだろう.今後は,この部分について考えていきたい.最後に,このカンファレンスに参加して思いついた研究内容は,通学路の最適化,生徒の行動圏,学区の設定…ですね.もちろん,ソフト開発・データ提供・スキルの伝授あってのことです.また,このような機会があったら参加したいです.

■地理的見方・考え方に関する個人的メモ
*事象の発見→空間的規則性(距離や傾向)→環境条件との関わり→他地域との結びつき
*調べる→分析する(統計的・空間的・構造的)→まとめる

*調べる→共有する→考える→発表する→調べる→共有する……の循環
*大学等→学校→地域支持機関


■関連サイト
 GISカンファレンス2003

 教育GISフォーラム企画<教育GISスクール開校>

 六本木ヒルズ

 地理情報システム学会 同学会学校教育委員会


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