日本大学地理学会春季学術大会<2003年6月14日>


はじめに
毎年恒例の日本大学地理学会春季学術大会が行われました.今年は,長年にわたり日大で教鞭をとられた立石友男教授の退官記念事業と共催しました.簡単に報告いたします.


■日本大学地理学会春季学術大会
 
 日時:2003年6月14日(土) 13:40〜
 場所:日本大学文理学部百周年記念館 国際会議場

        ▲参加した学生も真剣そのもの         ▲300人収容できる国際会議場も立見が出るほど



発表1

  ●牛垣雄矢(日本大学・院後期):「神楽坂における復元地図を用いた建物用途分析」

<概要>
 過去の建物分布が平面的に維持されているかどうか分析した結果を発表した.おもな結果として,建物の変化は,統合拡大がもっとも高く,大規模化がインパクトを高めているということができる.例えば,飯田橋駅付近では建物面積の増加割合が高い.さらに,平面形態の維持と高層化がポイントであり,広さ・形態・階層が変わると業種も変化してくる.
最後に,現在の建物へ対して飲食業が集中しているか,あるいは小売業やオフィスが集中しているかによって地区ごとの差異を明らかにした.まとめると,表地区の特徴は,建物が統合された場合に飲食業のほか住宅スペースも入ってきていること,またアパートやオフィスの進出という新しい傾向も見られることといえる.一方,裏路地地区は多用途が混在していることが明らかになったことがいえる.このように,地区ごとで異なる結果が得られた.

<私の感想>
非常に詳細な研究ですが,多変量解析を活用すると,より客観的かつ数値として解釈できると思いました.後は,建物の階層変化と用途変化の背景を話してくれれば,分かりやすかったのではないでしょうか.


発表2

  ●藁谷哲也(日本大学文理学部):「オーストラリアのcavernous weathering」

<概要>

 オーストラリアでの一年間の研修では地形に穴が空く過程を学び,その報告を兼ねて発表した.風化の様子について写真を用いて紹介された.岩石風化について,タフォニ・ハニカムのように聞きなれない言葉もある.観光客はシドニーへ来ると必ず訪れる場所があり,そこにはタフォニやハニカムが存在している。凹んだかたちの「ナマ」,ハート型の「タフォニ」などは,写真ではっきりとわかる.エアーズロックは,礫岩のタフォニができている.一つができ,崩落すると近くも崩落し列をなして連鎖的に起こるようである.礫に対し,砂岩タフォニもある.一方で,海岸にあるタフォニとハニカムは大変発達しているといえる.そして今でも,発達途上にある.例えば,ロイヤルナショナルパーク・コールクリフなどがある.また,海岸部には洞穴上の地形が多く見られ,カンガルー島に行くと花崗岩のタフォニが見られる.
結局のところ,塩類がタフォニやハニカムの形成に影響しているのではないかと思われる.そこで,穴の深さを測定することで風化速度が推定できるのではないかとういことでやってみた。すると,速いスピードで風化していることがわかった.これは,従来言われているようなオーストラリアでは風化が遅いということに反する結果である.風化速度を知る手がかりには,砂岩建築物やお墓がある.これらの海に近いところをみると,蜂の巣状に穴が空いていることがわかる.砂岩は数が多く風化が行われているのである.墓地では,差別風化もみられる.風化速度を調べた結果,墓地は1000年で70mm,海岸では1000年で100mmを大きく超えた.

<私の感想>
きれいな写真とともに,分かりやすい説明でした.タフォニは私のよく行く房総半島でも見ることができます.しかし,その成立過程などは考えたこともありませんでした.一般的な風化速度どれくらいなのかは疑問に残るところである.


発表3

   ●木村琢郎(横浜市立大学):「グローバルとローカルをつなぐ地理学

<概要>

 そもそも,地理学に国際をつけるのは自分の首をしめているようなものではないか.
なぜなら,空間に連続してアプローチできる地理学であり,国際関係からグローバルな地域関係へつなげられるからである.また,語学の知識がないとゼミ発表をしてもすぐにネタ切れになってしまい,奥行きが無いまま終わってしまいがちである.大学改革の一つに「地域貢献」があげることができる.例えば,YOKOHAMAイニシャティブを横浜市立大学ではやっていて,グロバール研究がいかに横浜にフィードバックできるか,ということを目的としている。これは,地理学の潜在的な有効性を示しており,とくに都市地理学の分野では著しい.加えて,場所的・地域的理論として空間的帰属意識の重層性がある.事例として,どこに自分たちの帰属感を感じるかを取り上げ,空間階層の広いところから重層的にしたとき,どのスケールに一番帰属意識を持つのかを調べた.その結果,1位は国家スケール(日本)であり,2位、市町村スケール(例えば京都市)となり,地球人意識は決して高いとは言えない.また,アジア人意識も低いということができる.この場所へのこだわりは,いろいろな問題で応用できる.具体的には,再開発事業や立ち退き問題などがそうである.
次に,重層的な空間的平等化をみると,EUの地域政策,南北問題,国際貢献など空間的重層化をめざす議論について必要であり,超国家的地域政策と「補完性の原理」(つまりは地域政策の重要性)が求められるのである.したがって,グローバルイシュウと地理学,グローバルとローカルをつなぐ地理学が問題でありとともに,今求められている部分といえる.

<私の感想>
これからの地理学の役割を説明していたような気がします。地域貢献や地域スケールに応じた考察は,地理学の得意とするところでしょう.事例に取り上げられた帰属感を感じる地域スケールについては,興味を持ちました.

                      ▲発表後のフロアからの質問・意見に対する議論も活発でした.▲


■関連サイト

 日本大学文理学部地理学科