平成17年度日本大学医学部公開講座(第2回)


■2005年度公開講座実施要項

主 催:日本大学医学部
     板橋区教育委員会
協 賛:日本大学医師会
期 日:2005年5月7日(土)〜6月25日(土)までの毎週土曜日
時 間:14:00〜16:00(13:30受付開始)
場 所:日本大学医学部 記念講堂 (行き方や地図はこちら

講義日程:
第1回 5月 7日 (土) テーマ「老化と物忘れ」 
    講師:鈴木 裕 先生(内科学講座神経内科部門専任講師)
第2回 5月14日 (土)テーマ「腰痛の予防と治療」
    講師:徳 橋 泰 明 先生(整形外科学講座助教授)
第3回 5月21日 (土)テーマ「目の健康:緑内障」
    講師:山 崎 芳 夫 先生(眼科学講座助教授)
第4回 5月28日 (土)テーマ「小児期からの生活習慣病の予防」
    講師:岡 田 知 雄 先生(小児科学講座助教授)
第5回 6月 4日  (土)テーマ「しのびよる血管の病気」
    講師:根 岸 七 雄 先生(外科学講座心臓血管外科部門教授)
第6回 6月11日 (土)テーマ「家庭で行う褥瘡の治療と予防」
    講師:佐々木 健 司 先生(形成外科学講座教授)
第7回 6月18日 (土)テーマ「目の前で倒れた人に対する救急処置」
    講師:木 下 浩 作 先生(救急医学講座講師)
第8回 6月25日 (土)テーマ「脳とからだの健康法―代替医療の試み―」
    講師:酒 谷 薫 先生(脳神経外科学講座教授)

◇関連サイト
日本大学医学部
板橋区教育委員会生涯学習課


第2回
第2回 5月14日 テーマ「腰痛の予防と治療」
講師:徳 橋 泰 明 先生(整形外科学講座助教授)

日本大学医学部整形外科学教室のサイト

◇おもな内容
・整形外科外来患者の主訴でも腰痛は多い。
 ターザン誌の紹介
急性腰痛と変形脊椎症で整形外科の8割
・急性腰痛症、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症
・腰椎について
 脊椎のはたらき,機能→写真で説明:運動性・神経の保護
・椎間板には体重の60~80%の負荷がかかる。姿勢によっては,大きな負担ともなる。
 椎間板は,最も早く老化のおこるところ(18歳ごろから)

●急性腰痛症について
 ぎっくり腰,いわゆる腰痛症,魔女の一撃→風邪とおなじようなもので,一生のうちに何回か経験するする。
 本当の原因については不明で,自然治癒率100%であるところにより,患者はいいがメカニズムは解明できていない。
 治療しない人も多い(国民生活基礎調査 1998;厚生省)し,自然に治る。
・腰痛のきっかけ
 重いものを持ち上げる,運転,スポーツ,肥満,中腰の継続(草むしりなど)
・椎間板内圧と姿勢の関係
 立位を100として,あおむけ25に対し,前傾(立ち,座る)150~185となり負担になる。
 腰の筋肉内圧も高くなり負担となる。
・急性腰痛症の治療
 治療は安静がベスト,痛くない動作で生活,鎮痛消炎剤内服,外用薬
・してはいけないこと,避けること
 スポーツ・運動,力仕事,中腰持続,入浴も控える
・寝方ベスト3
 図で説明(ひざの下にクッションを入れる,横向きで寝る,足を高くする)
・立ち仕事も踏み台をおいたり,股関節を曲げる。
・座り方:ひざと股関節が水平のなるのが理想。したがって,低いソファは負担になる。
・ものをもつのも,できるだけ自分の近くで持ち上げる。
・掃除機なども,中腰を避けるようにする。「腰を据えて取り組む」
・危険な腰痛,誤解される腰痛
 病院に行くべき腰痛…
 1安静で軽快しない腰痛,2夜間痛を伴う腰痛,3しびれを伴う腰痛,
 4筋力低下を伴う腰痛,5尿閉を伴う腰痛
・しびれを伴う腰痛について腰椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症
・椎間板ヘルニアの臨床症状
・椎間板ヘルニアの特徴
 1.20〜30歳代に多い,2.きっかけあり,3.最初は安静が大事,
 4.90%以上は自然治癒,5.手術が必要なのは医学的にまれ
・椎間板ヘルニア治療上のウソ
 1.民間療法・施術の多様性と有効性,2.切らずに治す椎間板ヘルニア(切らずに治る椎間板ヘルニア),
 3.手術しないと治らない→膀胱直腸障害
・椎間板ヘルニアの治療の進歩
 MRIができたことにより,ヘルニアが自然になくなることがわかった。
 6ヶ月経つとなくなってしまう。これを発見したのは,実は日本人であった。
 ここ十数年の大きな発見でもある。これは,今では当たり前の事実。
・低侵襲手術 Love法(1940)が最も一般的…愛(Love)はヘルニアを救う。
 1.顕微鏡視下椎間板切除,2.内視鏡下椎間板切除:16mm,
 3.Ho:YAGレーザー椎間板切除:針の穴
・各術法(Love,経皮,顕微鏡,内視鏡,レーザー)と有効率,皮切,歩行,入院,麻酔,適応制限についての表
 …それぞれメリット・デメリットがあり,一概には言えない。
  有効率は非常に大きい問題である。
  90%以上の有効率はLove,顕微鏡,内視鏡である。
・Love法も近年進歩している。
・愛(Love法)はヘルニアを救うが,愛が無くともヘルニアは治る
 上手な保存療法が重要

●腰部脊柱管狭窄症について
 高齢者に多い
 退行変性によるものが多い・・・図を用いて説明
・腰部脊椎管狭窄症と椎間板ヘルニアの違い
・腰部脊柱管狭窄症の臨床症状について
 腰痛,間欠跛行(歩けたり,歩けなかったりの繰り返し)
 1.馬尾型,神経根型,両者の複合型
 2.症状が進むと,200m先でもタクシーを使うようになる。
 3.姿勢の影響を受けるので,自転車に乗っているときの姿勢は楽
 4.しびれの移動,拡大による
 5.足のしびれだけで生活ができてしまう
・画像診断の紹介
 →MRIの紹介・・・無症状性も多い,「すべり」は危険な因子,
・MRIの意義
 1.他の隠れた疾患の鑑別
 2.腫瘍性・感染性疾患疑い必須
 3.うまく利用すればいいが,お金もかかる
・治療について
 生活指導がもっとも大事・・・歩行困難→寝たきりという心配
 誰にでも通用する治療はないが,それぞれそこそこは効く。
・手術が必要な場合
 膀胱直腸障害,社会的問題からの考慮(著明な運動麻痺)
・高齢者の手術適応
 →生活環境を重視するが,コンビニへ行けるかどうかを1つの判断基準としている。
・腰椎不安定性の画像
・Instrumentationとその意義について
・後療法について
 せん妄出現時は端座位開始
・Instrumentationの問題点
手術時間,出血量,合併症(感染対策),費用
・障害老人の日常生活(寝たきり度)判定基準
 生活自立>準寝たきり>寝たきり
手術によって,生存の88.5%はJ2以上で日常生活をできる。
・手術後の症状改善
 間欠は行の改善率・・・90〜95%以上
 しびれ改善・・・残存率70%
 筋力低下の改善・・・70%
骨粗しょう症を伴う場合,手術は難しい

●骨粗しょう症
・骨粗しょう症になると・・・背中や腰の痛み,身長の低下,背骨のまがりが出てくる。
 骨粗鬆症に伴う骨折も怖く,とくに高齢者では日常生活に大きく影響する。
・骨粗鬆症と転倒と骨折
 骨粗鬆症は「寝たきり」になることもある
 →寝たきりの原因で第2位(第1位は脳血管疾患)
・骨の代謝
 1サイクルは4〜6ヶ月
 骨の量について,女性は閉経後,骨折しやすい範囲になりやすい。→転倒骨折が多い
・骨吸収>骨形成となると骨粗鬆症となる。
・骨の強度
 骨密度だけでは評価できない。
 骨の強度・・・骨密度+骨の質
・原発性骨粗鬆症の診断基準
 脆弱性骨折のあり/なしにより,いくつか分類される
・閉経後の女性で,1日に必要なカルシウムは800mg。
 →牛乳が最も効率がよい。200ccで200mgという吸収率なので,牛乳を入れた食事が望まれる。
・骨粗鬆症のお薬
 完璧な薬はないので,食事によりカルシウムを摂取するのが望ましい。
・転びにくい環境をつくることが重要
 手すりの設置,段差をなくす,コードなどの障害物をなくす,夜でも足元は明るく
・避けたい姿勢
 前屈姿勢,重いものを持ち上げる姿勢,中腰継続

◇まとめ
▽急性腰痛症
  ・最初は安静が必要で自然治癒
  ・痛くない動作・姿勢が重要

▽椎間板ヘルニア
  ・ヘルニアの自然消失と保存療法の意義
  ・低神州手術の利用

▽腰部脊椎管狭窄症
  ・歩かない恐怖を減らす生活環境が必要
  ・社会的背景を考慮した適応

▽骨粗鬆症
  ・適切なカルシウム摂取と日光浴
  ・薬物療法の現状
  ・転倒予防の生活指導,環境づくり


◇おもな質問
・25年前にぎっくり腰をして,仕事していたのでいろいろ医者から言われたが,仕事をやめた後,さらに腰が痛くなり,治らないと言われ,今では痛み止めを飲んでいるだけなのですが,どうなのでしょう?
→何が悪いのかを決める必要があり,限界もあり,困っている程度もあるのでぜひ整形外科にかかって欲しい。

・現在,薬を服用しているのだけ骨密量が30%減少していると言われたのだが,何か関係があるのか?
→その薬を服用する量と期間が重要で,骨粗鬆症までには至っていないでしょうから,運動などして対応してみてはどうでしょうか。もう少し,運動するのがよいと思います。

・80歳後半なのですが、ぎっくり腰を何回かやっており,最近は足がしびれたり,背骨が痛くなったりする。あまり歩かないほうがいいのか,どうなのでしょうか?
→歩かないというのは,量の問題で以前より減らしてもらい,万歩計により歩数を調整するだけで生活環境が変わる。量を減らすと,衰えてしまうという恐怖があるかもしれないが,一時的に減らすだけで,また増やしていけばよいでしょう。歩くな,ということではなく,一時的に量を減らして再び増やしていけばいいことですし,他にも同じように思っている人がいるかもしれません。

・コルセットではなく,ウエストニッパーをつけているのですが,これは今後も継続していいのものでしょうか?
→長い時間やると,筋肉が衰えるので,痛みに有無によって,つけたり,つけなかったりして調節してみてはどうでしょうか。

・昨年腰痛で,通院してコルセットをつくり,今もつけているのですが,痛みが無ければコルセットをつけないでいいというのは言われないで,薬も服用しているのですが,コルセットは自分で調節しているが,薬のほうはどうなのでしょうか?
→あまり,厳密なことをするとうまくいかなく,調節しながらやっていき,個人差も当然あることなので,薬もコルセットそのまま継続してよいと思います。

・若い頃は水泳して,いろいろな療法をやったのだが,牽引療法を1年間したのだが効果はあるのでしょうか?
→牽引療法は,筋肉の痙攣をとる役割,筋肉の緊張をほぐすマッサージ的な効果はあり,それより先については今のところ分かっていない。万人共通に効く方法は無い。とくに,昔運動していた人には,その人が満足する治療はなかなか与ええられないのが現状である。

・昨年,主人が急に腰が痛くなり,お世話になり,様々な検査をしたが何の悪いとこもなかった。内科的に心配するところがあったので,薬をもらったたが,内科的な検査が必要だったのでしょうか?
→急に痛くなったときは,様子をみることも必要ですが,その担当の医師とよく相談して,心配ならば内科的な検査もしてもらえばいいと思います。しびれ=悪いのではなく,長期的に観察していくことが大切ではないでしょうか。多分,その医師も長い目で見ていると思います。

・ストレスと腰痛の関係はどうなのでしょうか?
→心の悩みを抱えているときは,痛みとして煩わしいものとなり,心の程度が腰痛へ影響する。腰痛といえども,そのバックグランドを見て,心の問題やストレスなどあるかもしれない。本当は,本日取り上げようとも思ったが,「心の問題」と混同しやすいので,あえてしゃべりませんでしたけど,社会で生きていく上では,重要であることは確かです。



◇今回の講演内容から地理学研究への展望(最重要!)
 今回の講演内容から,地理学研究への応用は少々難しい.コンビニまで歩けるかどうか,これが高齢者における手術の基準のひとつという話題がありました.この辺から,アプローチして,高齢者の行動圏と歩行圏との関係,といったありきたりのテーマになってしまうのか・・・。いやいや,健康で歩ける人とやっとこさ歩ける人との間で,行動圏にどのような空間性があるかを考察する.或いは,差があるかどうかの統計的検定をして,差があるにしろ,無いにしろ,その要因を解明する。もし,差がないという結果ならば,「高齢者における腰部脊柱管狭窄症に伴う行動圏の変化は無い」ということになり,この疾患による生活への影響はないということなる.したがって,腰部脊柱管狭窄症になってもその人の行動圏は変わらない.だから,この疾患は怖くない,むしろうまくつきあう病気,ということでしょうか.・・・やはり,こんな結果ありえないよな気はする.当然,調査方法は,腰部脊柱管狭窄症と言われた人を対象に,その前後で行動範囲がどのように変化したかを調べるのですが。正確には,何でもない時(正常時),なんとなく違和感でたとき(自覚症状),医師が診断した後(受診後)の3段階の変化が少なくても必要でしょうね。もちろん,地図を用いるわけですから,2次元回帰分析あたりを使うことにになるでしょう.1人の患者さんで2次元回帰してから,多くの患者さんからデータを頂ければ何か発見でいるかもしれない.これは,高齢者においてよくある疾患のため,社会に対する貢献度はある程度高い研究になるでしょう.まあ,「何か」インパクトがあればですけど・・・.あれれ,またもや研究のヒントを与えてしまいました.そして,上記の研究はGISを使うことにより,すばらしく飛躍するでしょう.誰かが,やる前に自分がやらねば.
主役にはならないが,塩・こしょうくらいにはなるであろう地理学研究でございます.


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